フレッシュ・ピュア練習風景（11月）

友よ
　緩やかにカーブした坂道の先に、
週に一度訪れる音楽の館「オフィースバルーン」はある。
地下へ続く階段に案内され、生のピアノ伴奏の音色がスタジオ
の隅々までをも支配していた。
今日は、初めての見学の日。

　ルーティーンの発声が終わると、早速練習曲が始まる。
三声の綺麗な歌声にうっとり聴き入る間もなく、
「３ヶ月後には、ステージが待っていますよ。」と弾むような
美しい声の主は　　
　　　　　　　　　主宰・指導者　酒井沃子先生。
どうやら、みなとみらい大ホールのステージ上のその場所は、
今会ったばかりの私にも用意されているようだった。

　大きな鏡には、長年放置してきた締りのない哀れな自分の
姿があった。
美しい声に誘われるまま、私は迷うことなくその場で入団を
決めた。

　あれから、３年
歌が生活の一部となり、共に歌える幸せを知った。
　古ぼけた本棚を無言で飾っていた[シェイクスピュア全集]
メロディーがついて青春が歌い出した。
✱小川のほとりの風に揺れる「柳のうた」（オセロー）
✱決して帰ってくるはずのない「あの人帰ってくるのかしら」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（ハムレット）
✱移り気な「恋のこころは」（まちがいつづき）　など
　　　シェイクスピアの四つの恋い唄は初舞台の演目だった。
　　そして言葉は風になり、花になり、友になり、出会いが
　　生まれた。
　立原道造の残した爽やかな五月に。
　命の大切さと感謝の心を教える　星野富弘。
　見えないものが大切と唄う　　　金子みすゞ。
　プリマドンナ気分を味わった「合唱でオペラ」
　懐かしのポピュラーソング　　　　　　　　　　など

　　　出会いは全て、ここ「オフィースバルーン」にある。

　今日、見学者が即、入団を決めた。
　あの日の自分がふとよみがえる。

３ヶ月後にはシニアコーラスTOKYOフェスティバルが待って
いる。
　我が団の３０年の歩みに思いをはせながら、穏やかなカーブ
を降る時、ふと見せた、庭先の葉の上に残った昨日の雨の雫は
一筋の光となって輝きを放っていた。

毎週月曜日　１３：３０pm～１５：３０pm
連絡先　TEL：０４５－９０２－７４０２

　　　　　　　　　　　　　　　　　　（ソプラノ：記）